建築家I.M.ペイ

光こそ鍵

「日本の昔の建築家は、土地と建物そして景観を調和させる、そういったフィーリングをもっていました。もちろん、わたしは真似はしたくありません。しかし、日本人の心、文化、伝統を尊重したいと強く思いました。」

「私は確信しているのです。光こそが建築にとってその成否の鍵を握っていると」

I.M.ペイの軌跡

I.M.ペイは20世紀最も成功したアジア系のアメリカ人建築家として知られています。その作品は21世紀を迎えた今日でも各国のランドマークとなり、国家の文化イメージにまで広がっています。

ペイは1917年、中国で代々地主を務めた裕福な家系に生まれ、上海のフランス租界で英米風の文化と教育を受けて育ちました。母に中国文化、祖父から儒教の徳を学び、叔父が所有していた名庭「獅子林」の異形の岩や道教から得た真理を探る感性を後に建築に生かすようになります。17歳で渡米し、ペンシルヴェニア大学の建築科を経てボストンのマサチューセッツ工科大学(MIT)の工学科に転入後、再び建築学を専攻しました。洗練されたケンブリッジの町の洗練されたステータスがペイの一生の好みを決定づけたといいます。

1940年MIT卒業後、ボストンのストーン&ウェブスター社でのエンジンの製図工を経てハーバード大学大学院の修士課程に入学、モダニズム運動の中心的人物だったワルター・グロピウスの講義を受けますが、モダニズムがインターナショナルスタイルになることに疑念を抱き、文化の多様性に従ったモダニズムを意識するようになります。

卒業後、ウェッブ&ナップ社に入社し、鋼とガラスの構成で知られるミース・ファン・デル・ローエの影響を受けながら、第二次大戦後の全米都市再開発に携わるようになります。1954年にアメリカ国籍を取得し、1960年、I.M.ペイ&アソシエイツ(1965年名称をI.M.ペイ&パートナーズに変更)を設立しました。

1967年、ミース流から脱却した彫刻的な幾何学構成でコロラド州ボルダーに国立大気研究センターを設計、これが後に「幾何学の魔術師」と称されるターニングポイントになりました。

1964年、ジョン・F・ケネディ記念図書館の設計者に大抜擢されたことから社交界での交流関係が広がり、そこからワシントン・ナショナルギャラリー東館等の代表作品が生まれ、フランス・ルーヴル美術館の改装計画でガラスのピラミッドをデザインすることになります。その後もMIHO MUSEUMや蘇州博物館、ドイツ歴史博物館、カタール・イスラム芸術美術館等、依頼された国の歴史と文化を上品で洗練された幾何学に取り込み表現していきました。

ペイの功績は、文化と歴史から最良のものを読み取る類まれな感性で、時代の最先端の技術を用いてモダニズム建築に品格を与え、高次元の芸術作品として昇華してみせたことでしょう。

略歴

1917
中国・広東で生まれる
1940
マサチューセッツ工科大学卒業
1946
ハーバード大学デザイン学部大学院修了
1948-55
Webb&Knappのディレクターを勤める
1955
Pei Cobb Freed&Partners(旧I.M.Pei&Partners)設立

主な作品

1967
国立大気研究センター(コロラド州 ボルダー)
1968
エバーソン美術館(ニューヨーク州 シラキュース)
1973
コーネル大学ハーバート・F・ジョンソン美術館(ニューヨーク州 イサカ)
1976
マサチューセッツ工科大学ラルフランドー化学工学ビルディング(マサチューセッツ州 ケンブリッジ)
1977
ダラス市庁舎(テキサス州 ダラス)
1978
ナショナル・ギャラリー東館(ワシントン)
1979
ジョン・F・ケネディ図書館(マサチューセッツ州 ボストン)
1981
ボストン美術館西館(マサチューセッツ州 ボストン)
1989
中国銀行(香港)
1989
モートン・H・メイヤーソン・シンフォニーセンター(テキサス州 ダラス)
1989
ルーブル美術館ピラミッド(パリ)
1990
神慈秀明会ベルタワー「ジョイ・オブ・エンジェルス」(滋賀 信楽)
1993
フォー・シーズンズ・ホテル(ニューヨーク)
1995
ロックン・ロール・ホール・オブ・フェーム・アンド・ミュージアム(オハイオ州 クリーブランド)
1997
MIHO MUSEUM(滋賀 信楽)
2001
中国銀行本店(北京)
2003
ドイツ歴史博物館(ベルリン)
2006
グラン・ドュック・ジャン近代美術館(ルクセンブルグ キルヒベルグ)
2006
蘇州博物館(中国 蘇州)
2008
イスラム美術博物館(カタール ドーハ)
2012
MIHO美学院中等教育学校 チャペル(滋賀 信楽)

主な受賞

1976
トーマス・ジェファーソン記念 建築部門賞
1979
アメリカ建築家協会(AIA) ゴールドメダル
1983
プリツカー賞
1989
高松宮殿下記念世界文化賞
2003
スミソニアン協会 ナショナルデザイン賞
2006
アーウィン・ウィッカート財団 東洋西洋文化賞