ふわあっと漂う小麦の風味は釜揚げうどん、冷やしうどんはコシ・出汁・ねぎ、鮮烈なおろしうどんに、天ぷらうどんの贅沢感、釜玉うどんにほんわり和み、きつねうどんは懐かしい・・・うどんの楽しみは尽きることがありません。

北海道産ホクシン小麦と製塩途上の濃縮海水を使用した MIHO MUSEUM 自慢の手打ちうどんの工房をのぞいてみましょう。

振るった粉に塩水を入れ、粉粒全てに水分が入るまで、粉と水とをなで続けます。麺の塩分は季節によっておいしく感じる量に調整し、粉と海水が充分混ざった頃にゆっくりこねはじめると、アイボリー色の柔らかい塊から香りが立ち昇ります。さあ、いよいよ踏みに入ります。

生地の上には分厚いビニール、うどん職人はすり足で、とんとん踏み始めます。能舞台かと見紛うばかりに腰を曲げ、膝をバネにし、生地を折っては踏むこと2回、つやが出てきました。いまだ生地に残る微妙な色の違いは水分の入り方が違う証拠。それを消すべく畳んでは踏み畳んでは踏み、職人の額に汗がきらり。「あっ、そこで折り畳んでは!」先輩職人の声。生地の色の違いをじっと見つめます。踏みが強いと粘りが切れてぶつぶつ切れる麺、空気が入るとぼそぼその麺、粘りも空気も足裏感覚で計りながら踏み続けます。踏むこと3回で生地はつやつや、4回5回と踏み続け、つやつやもちもちぴかぴかの生地は吸い付くような柔らかさ。生地を一晩寝かせるためにカットすると、畳んだ痕が美しい層を成していました。

踏み終えたうどん生地

つやつやもちもちの生地

翌朝、早朝出勤のうどん職人が、生地から更に空気を抜きつつ菊練りで瞬時にまとめ、出汁の仕事にかかります。複雑なうまみを組み合わせるのがうどん出汁、大きな寸胴に一晩水を張って、数本の長い昆布といりこがごっそり入っています。早速火を入れ20分、昆布を引き上げ見ていると、いりこが鍋底で立ち上がり、ひとつ又ひとつと浮いてきます。どんどん上がる、群れをなして上がる。なべをいりこが覆った途端、かけらも残さず引き上げます。次はさばとウルメの出番、いっきに入れてあくを取り、更にめじかとカツオを足すと、香りがぐっと本格的に。ひとつまみの塩を入れ、布で漉して出来上がり。昆布と五種類の魚が紡ぐ、香りとうまみの塊です。世界に誇る出汁文化、魚スープの極みが凝縮しています。

浮き上がるいりこ

仕上げのカツオ節もたっぷり

1か月以上寝かせた「かえし醤油」を取り出しました。醤油と砂糖とみりんを煮つめ、最後に秘伝・梅干しを加えたかえし醤油に出汁を合わせます。かけつゆは辛め、冷やし、釜揚げは甘目のかえし醤油、もうお口の中に、味が滲み出て来ませんか?

では、どうぞ頂きましょう。白く輝く冷やしうどん、これぞうどんの王道です。口に入れると麺の弾力、うまみの塊のような出汁がくっ、ねぎがさやっ、そしてのどの奥に広がる小麦の豊かな香り、一切の雑味なし。「純・うどん」と名付けたいような一品です。

ホクシン小麦は、うどんに最適の風味を持つと名高いそうで、今のところ秀明自然農法のホクシン小麦に勝るものなしとやら。手打ちを始めて12年目、全身で粉の気持ち、いりこやうるめの気持ちを感じ始めたMIHO MUSEUMのうどん職人、目指しているのは美術館に居並ぶ天下の名品を作り上げた古代職人とおなじ「世界最高のうどん」。食の芸術12年目、どうぞご堪能下さい。