お豆腐を油で揚げたらお揚げさんになる、と思い込んでいませんか? いえいえ、あのふっくらして内側は豆の香り、噛むとお出汁がじゅわ~っと沁み出す柔らかなお揚げさんは、豆腐とはまた違った技で出来上がる、贅沢な食べ物なのです。

MIHO MUSEUM のお揚げに使用する大豆は、もちろん農薬や肥料を使わずに育てています。浄水に一晩浸した大豆を石臼で挽き、とろとろの液を釜で蒸します。釜底からぶっぶっと吹き出す蒸気、全体を均一になるよう混ぜると、釜はオフホワイトの泡でいっぱいです。温度が91度まで上がったらビックリ水、そして搾り機へ。出てきた豆乳に、にがりを正確に測って投入。うまみと甘みを引き出すには、豆乳濃度、温度、にがりの微妙なバランスが重要なのです。え、濃い豆乳の方がおいしいだろうって? それだと揚げた時に膨らみません。

にがりで徐々に豆乳が固まり、上に引いた布の上に水が沁み出して来ました。その水を捨てながらまた味見、出来栄えを予測します。四角い型に布を敷き、いい具合に固まった豆乳を細かくしてから型の中へ。布をかぶせて簾を載せ、3つ重ねてコンプレッサーで低圧30分高圧10分ほど搾ります。この搾り具合がまた微妙、沁み出す水が点々と落ち始めたら終了です。これらの作業をしながら、職人は一度も手を休めません。



沈殿や搾りの待ち時間に、ひたすら使用済道具を掃除。蒸し釜、搾り機はもちろん、電動石臼に至っては分解掃除! 終わり次第に容器や布、ザル、続いて床、排水溝の奥までブラシでこすります。上質の豆は油やタンパク質が強いから、すぐに掃除をしないとこびりついてしまうからです。一般的には強力洗剤をたっぷりかけて洗浄するのが普通ですが、MIHO MUSEUMの工房では環境に配慮してごく薄いものしか使わず、お湯と手とスピードでこびりつき汚れに挑戦しています。

ここでようやく生地の完成です。ほわほわと湯気を発する四角い生地を板に出し、切り落したへりを噛み締めると、しっかりぎっしり詰まった感じ。これを冷蔵庫で一晩寝かせます。

次の日、休ませた生地を三角形にカットすると、ほんのり豆の香り。30枚ほどまとめて低温の油に入れると、角から細かい泡が出て、徐々に大きく膨らんで来ます。上質のなたね油をたっぷり使う贅沢さです。揚げ足りないとぺしゃんこになってしまう生地、ひっくり返したり沈めたりと細かく世話をしながら、さあ頃合良しと見極めて隣の高温油へ。いよいよ気が抜けません。内は柔らかく外はさっくり形をキープ、隣の低温油には次の集団が入っています。両方をにらんで揚げては返し、揚げては返し…。表面がしっかりして、へこまなくなったら大丈夫、固くなりすぎないよう即座に油から引き揚げます。あつあつの揚げたてには、香ばしい風味に豆腐のまろやかさが封入されています。

さらに翌日、油抜きしたお揚げさんを出汁でコトコト煮始めました。やがてお酒と出汁が香り立つと、火を止めて一晩寝かせます。これでようやくキツネの完成です。

どんぶりにうどんが躍り、つゆを廻し掛けます。出汁で温めた大きなお揚げにねぎを高々と盛り、拡がる香りと甘さ、やさしい弾力をかみ締めてお揚げさんを頬張る幸せ、そして身体に沁みるぬくもり。一枚のお揚げには、こんな手間と想いが隠れています。

  • 膨らんだ鶴の子大豆(秀明自然農法)
  • 石臼で挽いた豆
  • 濃度7.2度の豆乳
  • にがりで固まる前に型へ
  • 水分をしぼったお揚げの生地
  • 切った時は小さい
  • 丁寧に世話をして揚げる
  • 落とし蓋でお出汁たっぷりに