世に自称「ソバ通」は多く、あそこのソバ食べたか、どこの手打ちは香りが歯ごたえがと、かまびすしい。それでいて紹介された店に行ってみると、ぼきぼき音がしそうな硬いソバから、つるりふにゃりとしたのまで、人の好みは千差万別、誰もがうまいというソバなんて、この世にないとしか思えません。

MIHO MUSEUM のレストラン、ピーチ・バレイでは、2008年から手打ちそばを始め、ご好評を頂いております。

まずは、頂いてみましょう。湯がきたての光るそばです。つるつるっ、そば粉の濃淡が点々と入ったそばをすすると、これはまたなめらかな口触り。でも嚙んでみると、柔いかと思わせて、最後にしっかりコシが残り、にゅーっと歯に来る抵抗感。昆布、鰹、めじかの出汁が、がっぷりと四つに組む一番です。横綱級のそばを出汁が包みこんで支える包容力。

それでは、そば打ちをのぞいてみましょう。石臼にそばの実を入れて、挽いて挽いて挽いて、茶色い殻が割れたら、手でより分けて一回。うって変って湿り気を帯びたような黄色い粉が石臼を覆いますが、これが一番粉。最も細かいこの粉から、打ち粉を取ります。そして何回と挽いては漉していくと、そば粉の潰れる部分が変って、色がだんだん濃くなってくる不思議さ。ちょっと湿った草のようなそばの香りが漂って来ました。ようやく挽きあがりです。自家製粉のそば粉は新鮮さが違います。できたそば粉に、カナダ産の小麦粉2割と水を加えて、かたさを加減しながらまとめ、きれいに伸ばして折り畳んでは切っていく。がしゅっ、がしゅっ・・・・長い道のりを経て、ついに見慣れたそばの姿になりました。そして湯がき時間は・・・、わずか1分。冷水で揉み、出汁にねぎとわさびを添えて、テーブルへ。

「蕎麦大全」なる手打ちそばの指南書に、こう書いてありました。「いい色と香りと味のあるそば粉の確保がいかにむずかしいか・・(中略)・・打って張り合いのないそば粉では、そば屋をやってる甲斐がない。(中略)・・・そば打ちを志すなら、まずそば粉にこだわりなさい。」

自家製粉、手打ちそば―あとは、通の皆さんにご賞味いただき、存分に薀蓄を傾けて頂きましょう。