白くて甘いブランマンジェをひとすくい、きりりとしめるエスプレッソゼリーを味わって、下にひろがるチョコレートババロアの海。舌に柔らかくからまる食感の中に、おや、意外と効いているのが濃厚なチョコレートの酸味。けれども甘いミルク味が再び優しく包んでくれて、最後の一口を頂く頃には、身も心もとろけるような気分です。子供のおやつと甘く見てはいけません。この一品、タダモノではないのです。

MIHO MUSEUMの製菓工房に、南米・ブラジルからチョコレートが届き始めたのは2012年頃。Agriculture(農業)とForestry(林業)を組み合わせた言葉が由来のアグロフォレストリー農法で注目を集めているトメアス産のカカオ豆から作ったチョコレートです。一部の専門家の間ではトメアス産が最高品質だと言われています。ここにはひとつのドラマがありました。

トメアスは日本人移民の土地で、1920年代には胡椒栽培で大いに繁栄しました。ところが数十年後、胡椒が病気に侵されて壊滅、農家は目も当てられない惨状に陥ったのです。そんな時、ひとりの農民がアマゾン原住民の暮らしを見て不思議に思いました。なぜ穏やかに暮らせるのか。よく見ると、彼らは家の周りで様々な作物を栽培し、「ひとつが駄目になっても他の作物が良ければ困らない」暮らしを打ち立てていたのです。やがて彼は農場に稲、バナナ、カカオ、胡椒、果物各種、材木になるマホガニーなど様々な草木を植え、南米の森を再生しながら移り変わる作物の収穫を頂く、という農法に切り替えました。すると作物は豊かに実り、再生した森には鳥や昆虫が帰って来るようになったのです。

そんなトメアス地区で、農薬・肥料を使用しない秀明自然農法によるカカオ栽培が始まりました。チョコレートとレストランの胡椒は、同じ土地で育った幼馴染み、そのうち様々な果物も到着し始めるかもしれません。

カカオの実

さて、チョコレートババロアに戻りましょう。この一品は三層のバランスが決め手です。同じ産地のものは相性がいいとされますが、二層目のエスプレッソゼリーもブラジル産のコーヒー豆、ババロアと同じ柔らかい食感になるよう調整すると、エスプレッソがやさしい苦みに変わりました。濃いめのチョコレートババロアは泡立てた卵白で軽やかさを加えます。すると熱いうちは苦みと酸味の立ったババロアが、冷えて心地よい味に落ち着くのです。

  • ブラジルから届いたチョコレート
  • チョコレートババロアを卵白で軽く仕上げる

ブラジルと日本をつなぐチョコレートババロア、自然なコクと苦みの中に、ブラジルの森の心地よい風を、ぜひ感じてみて下さい。