ヘラクレスへらくれす

  • ギリシア
  • 前4―前3世紀 ギリシア・ヘレニズム期
  • 青銅、ガラス
  • 像高:20cm

ヘラクレス像は通常筋肉隆々髭面の壮年の姿である。ライオンの毛皮を頭からまとい、両前脚の皮を胸前でヘラクレス結びにし、左腕にその末端をかけ、右手に棍棒を持っている。これはギリシア神話に登場する英雄ヘラクレスの徴として不可欠である。しかし、この像は様式化や踏襲した表現を極力排した、筋肉質の野心あふれる青年の姿だ。わずか20cmほどの像ながら、指先の爪、毛皮の毛並や裏表の別を造りだす程の繊細な気配りと驚異的な表現力は、強力な権力や財力を背景とした人物の肖像を他にしては考え難い。古代マケドニア王家はヘラクレスの末裔を自認し、硬貨などには王の肖像をヘラクレスに扮した横顔で現した。この像の特徴は、プリニウスPlinyの言う「最も微細な部分に至るまで表現しきる超絶の繊細さ」を持った、アレクサンドロス三世お抱えの彫刻家リシッポスLysippusの作行にも通じるものがある。
マケドニアの青年アレクサンドロスⅢ世は、わずか6年足らずでペルシアを滅亡に追い込み、生前から神格化された。小さめの頭に大きな手足という当時の彫像の特徴を持つこの像が、彼の肖像を意識したものであった可能性は高い

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