野生山羊装飾杯
- 前アケメネス朝ペルシア
- 紀元前8-紀元前6世紀
- 8-6cB.C.
- 銀、エレクトラム
- H-13.5 W-15
解説(開館1周年記念展)
この銀製の杯は、立体的に表された野生山羊の前半身を付け、金銀の天然の合金エラクトラムの箔を型押しでロータス文やロゼッタ文などに成形したアプリケの装飾を施しています。アプリケはあらかじめ切られた器の溝にその端をはめ込むようにして取り付けられていますが、この技法は後のアケメネス朝ペルシャにも受け継がれました。山羊の写実的な表現、前脚の筋肉の様式的表現やロータス文はアッシリアの様式を示していますが、器の右後ろの縁には新エラム語の小さな楔形文字が刻まれ、紀元前7世紀頃のイラン系メディア王国の王名が記されています。当時は西イランの諸国とアッシリア、そして新バビロニアの間で複雑な抗争が展開され、最大の勢力であったアッシリア帝国が滅ぼされメディアが覇権を握って行った時代ですが、このようなアッシリアの器が当時イランにもたらされメディア王の所有となったことは充分ありえたことだと考えられます。
野生山羊装飾杯
作者は“空間恐怖症”であったのかと思う程、ロータス、パルメット、ロゼットなどの吉祥文でこの杯を覆い、野生山羊の装飾で自立させている。アッシリアでは太陽の復活を象徴する山羊は、同じ象徴のロータスと組合わされるめでたい捧げ物だった。杯のパルメットとロータスは更に聖樹形に発達させたもので、この器をこの上なく神聖なものにしている。
Cup with an Ibex and appliques
The surface of the cup is so packed with ornament-auspicious lotus buds, palmettes, rosettes and the like-that one might suspect the artist of having kenophobia; it stands upright thanks to the decorative form of the ibex. In Assyria the ibex and lotus flower were felicitous offertory items because they signified the rebirth of the sun. The palmettes and lotus buds have also been worked into the form of a sacred tree, combining all these elements to give the vessel the greatest possible holy symbolism.