隼頭神坐像
- エジプト 第19王朝
- 前1295 - 前1213年
- 銀、金、ラピスラズリ、水晶
- 高:41.9 cm
ツタンカーメンの王墓を発見したことで有名な考古学者イギリスのハワード・カーターが、その発見をする7か月前にカイロの骨董商の家でこの像を見ていたことが彼の日記に記されている。彼は「全くすごいものであり、現存する数少ない本当の礼拝像である。」と、この神像の事を称している。
古代エジプトの石造神殿、部屋を幾つも通り抜けた最奥の「至聖所」には、生ける神がいると考えられていた。神は神官にかしずかれて日毎衣服を変え、供物を捧げられ、香油を注いで浄められていたと思われる。そして、その姿はファラオと限られた高級神官のみが拝することができた。エジプトに現存する神像のほとんどは、建築的意匠や装飾または個人の奉納像としての模刻であり、神殿の至聖所に神そのものとしてまつられた神像の遺例は僅少である。
この神像は銀無垢でできており、かつては葉書くらいの厚みの金で覆われていた。目には水晶、髪にはラピスラズリが象嵌されている。これは「骨は銀、肉体は金、髪はまことのラピスラズリ」と神話に表現された生ける神そのものの姿を伝えている。本像の総高42cmであるが、今は失われてしまった冠を含めると53cmになる。これは記録の残っている多くの神像と同様である、神像にふさわしい長さである。
また、この像を修復した際、もとは赤い目をしていた、ということがわかった。赤い目は「最強のホルス神」と言われる。像の制作時期は、ラムセスⅡ世の頃と思われ「この神像が、ラムセスⅡ世を世界最強の王へと導いたのかもしれない。」そんなロマンさえも現実味を帯びる、偉大なる力を感じさせる神像である。