牡鹿型リュトンおじかがたりゅとん

  • 小アジア/黒海沿岸地域
  • 前4-前2世紀
  • 青銅
  • 高:37㎝

リュトンとはギリシア語で注ぐ器を指し、レオー(流れる、流れ出る)を語源としている。それは杯、柄杓や瓶など機能的な器と組み合わせて使った、神聖な器である。牛角と獣形の神聖な力を合体したものであり、注ぎ出される液体は神秘な力が漲っていた。
この曲がった角杯の下端に造りだされた牡鹿の造形は、首を真っ直ぐに立てて前を見据え、その体は角杯の曲線にそって反り、前脚を伸ばし後脚を跳ね上げる生気みなぎる体勢となっている。鹿の角は上部が広がったヘラ状で、体躯には鍍金を施した小判状の文様を施してあることから、地中海域と小アジアに棲むダマジカを表したものである。ダマジカは自動車並みの速度で走り体の倍ほど飛び上がる。古来その跳ね上がる姿は、盛んに生茂る植物と組み合わされた、強い生命力の形であった。広がった口縁は浅く折り返され、側面には連弁意匠が刻まれ、口縁の直ぐ下のフリーズには縄絡文(ギローシュ)を下の境界線として、ロータス文と植物文を交互に配している。このフリーズの意匠はペルシアの様式を踏襲しているが、口縁側面の小さな連弁意匠は古代トラキア銀器の口縁にも見られるような簡略化されたものである。角杯部分には横畝が蛇腹状に施され、途中から牡鹿の毛皮を上から被せるように体躯の表現に移行している。これら口縁直下のフリーズの構成、蛇腹状の横畝の器胎、後脚を跳ね上げる偶蹄類の体勢を毛皮に被せるように器に刻み付ける意匠は、前5世紀アケメネス朝ペルシアのものとされる。しかしアケメネス朝の時代には、リュトンに付けられた偶蹄類が前脚を伸ばす体勢は西アジアではない。このことからヘレニズム期以降の地中海域の小アジア系の工房作である可能性も考えられる。

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