辟邪へきじゃ

  • 中国 前漢時代
  • 前2世紀
  • 高:7.0 ㎝ 幅:7.2㎝

山西省から発掘された陶範に見られる有翼の龍や、同時代の河南省から発掘された青銅器などに刻まれた龍は、横S字形に波打つ角を持つ四足の猛獣である。これはそれまでに無かった 龍の表現で、こうした造形は漢代に出現したいわゆる“辟邪・天禄”の姿につながっているものと思われる。
辟邪・天祿は、後漢の墓陵の前に置かれた一対の聖獣の石彫であった。この造形はすでに前漢の玉や青銅製の副葬品の中に出現していた。武帝以来、漢が直接に中央アジアとのつながりを持ち、西域経営乗り出した影響を窺うことができる。
青銅に金銀象嵌を施した獅子形の小像は、脚を強く踏ん張り、やや頭部を上にあげて咆哮するかのようである。頭頂には黄金の横S字形の角を戴き、黄金の雲気が胸の部分から始まり臀部で麒麟の尻尾のように逆巻き後方に靡いている。前脚の付け根には翼の翻案を想わせる大きく弧を描く黄金の雲気があり、その肘の部分に小翼状の突起がある。尻尾は鹿のような平たく幅広である。耳の端に施された線条文や鰓髭の帯状の突起は西アジアのライオンの要素に通じているが、特殊な形の角も含め遠祖はペルシア型のグリフィンに求められる。その体勢とともに前脚、体側、後脚に施された銀象嵌には、瑞獣の強いエネルギーが込められており、邪鬼があらばその鋭い鉤爪と鋭い牙で襲いかからんとする気迫を感じさせる。これは副葬品として作られたもので、小型でも入念でしっかりとした造形で作られたこの瑞獣は、充分に墓室内の守護をするに足るだけの力を備えていたに違いない。

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