女神立像にょしんりつぞう

  • エジプト
  • 前3世紀
  • 花崗閃緑岩
  • 高:159.5cm

この女神像は、直立不動の態勢で前方にやさしいほほえみを含んだ眼差しを向け、左手には茎の湾曲した睡蓮の笏を持っている。睡蓮は朝に開き夕に閉じることから、太陽を生む花とされ、復活再生を象徴した。像の頭頂にみられる矩形の冠痕は、かつて玉座形冠がここにあったこと思われ、母神イシスとされる。三部に分かれる鬘を被り、踝と手首まで隠す薄物をまとい左足を前方に出す女性像はエジプト彫刻では極めて典型的なものである。額に着けているディアデム冠には、エジプトを象徴するコブラがある。ディアデム冠をヘラクレス結び (本結び)で結わえている。この結わい方は、古代ギリシア世界では英雄や王族がする習わしがあり、王族の祖先をヘラクレスとするギリシア系マケドニア王家にとって特別な意味があった。この像は、全体の様式が極めてエジプトの伝統的な特徴を示している一方、ディアデムでマケドニア王家の徴を示すことからプトレマイオス王朝初期の神格化された王妃アルシノエ二世を表している。
紀元前 4世紀にペルシアの支配からエジプトを解放したマケドニアのアレクサンドロス三世(大王)であったが、大王亡き後、その将軍のひとりであったプトレマイオスによって、エジプト数千年の王朝の伝統を保つ形でプトレマイオス朝がひらかれた。その二代目プトレマイオス二世によって、王妃の死後、王妃の像は全ての神殿にエジプトのイシス女神として祀られることになった。

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