仮面かめん

  • オルメカ、リオ・ペスケーロ
  • メキシコ・ベラクルス州
  • 前900年~前600年
  • 翡翠
  • 高:17.0cm  幅:16.5cm  厚:9.0cm

オルメカ文明は宝玉工芸にも長けており、翡翠、蛇紋岩など準貴石を刻んだり磨いたりする熟練の技をもち、メキシコ湾岸(メキシコ・ベラクルス州、タバスコ州)の地域に前1250年頃には成立していた。古代オルメカ美術は、人間、動物、複合した存在の多様な表現が特色で、その中には、トウモロコシの神、鳥蛇=オルメカ龍など明らかに超自然の存在の表現が見られる。その他、オルメカの頭像、石碑、また一部の仮面は、生きている個人に似せてその人相を表現する肖像として作られた。
この翡翠の仮面は感受性豊かな表情、はっきりした眼差し、広がった鼻の男性を表している。恐らく葬儀あるいは先祖祀りとして一家や一族の祠堂に納めた仮面と思われる。この仮面の翡翠は変色しているのは、火中したためであろう。多くのメソアメリカの人々は、神々と祖先を甘美な煙で供養するため、香を始め供物を焼いて捧げる儀式を行った。こうした仮面は一家内で遺産として保存され、何年も何世代も祖先の祠堂に納められ、最後に副葬するために儀式として焼かれたり埋められたりしたのであろう。これも副葬される最後の瞬間に焼かれたのであろう。
この仮面には両耳の前に上から下までと、右目にかぶせて意匠が刻まれている。これらの意匠は恐らく翡翠の針で刻まれたものでる。こうして刻まれた意匠には、酸化鉄か辰砂のような鮮やかな赤色顔料が充填された。両耳の前に刻まれた意匠には歯茎括弧と呼ばれる図像があるが、それは鳥蛇、オルメカ龍の口の中に見られる歯茎を思わせるからである。この蛇あるいは龍は空、風、雨に結び付けられ、羽毛の生えた蛇と呼んだ超自然の存在の最古形であった。右目の上と下に刻まれた意匠全体は下界への入口を暗示している。この仮面に見られる意匠からこの人物がその共同体の福祉のために神々や祖先との仲介をすることに精通し、更に彼が超自然の洞察力を持っていることを伝えている。

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