舌にのせるとなめらかに溶けて、甘い香りが口いっぱいに広がる・・・これはアイスクリームでもプリンでもありません。 そう、おとうふです。大豆の甘みとコクとはこういうものかと、つくづく感じさせてくれるこのおとうふ、実はこんな誕生秘話があるのです。

秀明自然農法で作られた大豆が届き、「これで豆腐を作ったらどんな味?」と、京都の豆腐屋さんに豆を持ち込んでお願いしたのが最初です。結果は大失敗。お豆腐屋さんは良心にかけて「こんな失敗作は出せません」と拒むのを口説き落とし、食べてみたら「えっ、おとうふ?」と、驚く甘さとなめらかさ。確かに湯豆腐や味噌汁に入れたら、溶けて無くなってしまう代物ですが、まったく新しい食感と味に、「ぜひ、これでいきましょう」と美術館の裏手に豆腐工房を立ち上げたのが、MIHO MUSEUM の名物、とうふの始まりです。

北海道の「鶴の子」 大豆

濃度17度の豆乳に沖縄のにがりを混ぜる。

やがて大豆が各地から届き始め、使ってみると全部性格が違います。そんな中で北国の大豆は、小粒で地味な存在でした。ところがとうふになると、これがたいへんな甘みで、豆乳がさらっとしている。ならば、思い切り濃い豆乳で作ってみよう、と実現したのがこのとうふ。豆乳の濃度は、普通の豆腐で12~13度、有名店でも15度くらいらしいのですが、ここでは17度の豆乳でおとうふを作るようになったのです。

そのうちに、沖縄で海水を使って昔ながらの塩作りをしている方が、副産物である自然のにがりを、幸いにも分けて下さることになりました。しかし、消泡剤には自然のものがありません・・・。

さて、2004年は天候不順で、大豆が不作でした。MIHO MUSEUM でも材料が足りず、おむすび膳のお客様にとうふを召し上がって頂くのが精一杯。以前のようにお持ち帰り用を作ることができず、職人さんはちょっとお暇に・・・いえいえ、そうではありません。彼らはこの機会に、果敢にも消泡剤なしの豆腐に挑戦したのです。消泡剤を入れないとどうなるか・・・、炊いた豆の何倍もの泡が出て、できたとうふは穴だらけ。けれども一度に炊く分量が少なければ、泡を消せるのではなかろうか?

そこで炊いている最中に、蓋を開けてはかき混ぜて、温度を抑えて必死に泡を消してみました。すると何とか消泡剤なしでも、なめらかなとうふが出来たのです。

今も進化しつつあるMIHO MUSEUM のおとうふ、ぜひ一度お試しあれ。