エピソード

ロータリー

MIHO MUSEUM で、意外にその魅力を知られていないのは、ロータリーと呼ばれる場所です。本館前プラザから左に行くと、松やつつじに導かれて建物の地下入口へと続きます。ここは、雨の日の電気自動車発着場となり、車椅子の方にもご利用頂いていますが、ちょっと素敵な場所なのです。

一度晴れた日に、たった一人でここへお越し下さい。八角形の壁が高く立ち上がり、ローマのパンテオンのように四角い天窓が開いています。人を包みこむ肌色の暖かな空間、差し込む日の光と木の葉のざわめき、入り口から吹き込む風が頬をなでて、あなたの側を通り過ぎます。

中央に立ったら、ハミングしてみて下さい。あなたの声が天井に高く響き渡り、まるで天使の歌声のよう・・・。そうです、ここは何と残響が5秒以上も続く、類稀な音響効果を持った空間なのです。子供たちがワークショップをする時には、必ず中央で声を出したり拍手をしたり、先日は有名なチェリストがやって来てCDを録音し、普段でも人知れずオカリナを吹く方や、笛の演奏をなさる方が出没します。

しばらく音響を楽しんだら、椅子へどうぞ。入口や出口を振り返ると、まぶしい緑が光の中に溶け込んでいます。足元にはピンコロと呼ばれる石の舗装。これは端から丸く石を埋めていくのですが、やってみたら最後に残ったスペースが石半分しか入らなくなり、最初からやり直したのだとか。壁は内部と同じライムストーンで、立ち上がる天井は同色のカラーコンクリート、奇しくも古代ローマ人が、コンクリートを使って初めて実現したドーム状の空間が、東洋の装いを持って甦って来たかのようです。

時につむじ風が起こり、枯葉がくるくる回りながら、天窓へと吸い上げられて行きます。雨の日は四角い雨が降り、雪の日は四角い雪が降り、ふと見ると傘を手放して、霧雨の中に身を任せている方もいます。

愉しみ方はそれぞれですが、いつかあなたがMIHO MUSEUMに来館された折には、どうぞ、ちょっとだけ覗いてみて下さい。

一覧へ